ショーメ

ショーメは、フランスで最も伝統のある宝石店で、ジュエリー部門でオートクチュールコレクションに
参加、王室ともゆかりの深いブランドです。

ショーメは、1780年に、マリ・エディエンヌ・ニトによって設立されました。

もっとも、当時は単に工房やお店を構えるといった感じで、現在のような、会社組織として
設立されたのではありません。

ニトは、マリー・アントワネットの御用達宝石職人のもとで修行を積んだあとに独立したのですが、
最初の高名な顧客は、ナポレオン1世の妻、ジョゼフィーヌでした。

ジョゼフィーヌは、ニトにとっての最初のミューズであり、またナポレオンの後妻、
マリ=ルイーズも大切な顧客になりました。

現在でも、パリに構える店の中で、マリ・ルイーズがショーメの宝石を身にまとった絵画を
見ることができます。

当時の王家では、宝石は「権利の象徴」として、重要な役割を果たしていました。

豪華で美しい宝石の数々を身に付けることで、権力をより大きなものとして示すことが
可能だったのです。

ニトは、王家のために尽力し、「聖なる宝飾品」や「帝国の剣」を誕生させました。

ニトは、亡くなる前までに引退しています。

そして、息子が事業を継承し、フォッサン、モレル、ショーメといった宝石デザイナーが後継者として、
更に洗練された作品を多く残していくことになります。

事業の発展

ショーメを創設したニトが引退した後も、フォッサン、モレル、ショーメといった優秀な
宝石デザイナーが、その伝統を受け継いでいきます。

フォッサン(Jean Baptise Fossin)はイタリアのルネサンス時代の装飾品にインスパイアされた、
ロマンティックな美しさを持つ作品を次々に発表していました。

そして、その後継者となったモレル(Jean-Valentin Morel)は海外進出を試み、1848年には、
ロンドン店をオープンさせました。

モレルの宝石はたちまちイギリス人の心を掴み、やがてヴィクトリア女王のお抱え宝石商の
地位にまで駆け上がりました。

そして、モレルの後を継いだのは、モレルの娘の夫である、ジョゼフ・ショーメ(Joseph Chaumet)です。

ショーメは「ティアラの巨匠」とも呼ばれています。

元々、このメゾンはフランス王家に沢山の宝石を納めており、また戴冠式のティアラも、
このメゾンによって造られたものが使用されましたが、ジョゼフ・ショーメの出現により、
メゾンの中で、ティアラが確たる地位を確立します。

日本文化からもインスパイアされたショーメは、オリエンタルテイストも取り入れたティアラなども
製作し、ブランドとしての方向性を位置づけました。

時はベル・エポックの時代。

その「良き時代」と言われるフランスが最も華やいだ時代に、ショーメの宝石は、揺ぎない地位を
確立したのです。

変革の時代

1928年、父ジョセフから、その息子マルセルに事業が引き継がれます。

マルセルは、それまでにはない宝石デザイナーで、幾何学的な模様を取り入れ、またボーイッシュな
好みを前面に打ち出し、それまでにはない作品を発表していきました。

マルセルの作品は、パリの装飾博覧会で大変大きな評価を受け、後に「アール・デコの前身」と
呼ばれる独自のスタイルを確立しました。

そして、メゾンは戦乱に巻き込まれていきます。

第二次大戦が終わるまで、ショーメも商売に専念することはできなかったと思われ、この期間には
大きな活動履歴は残されていません。

1945年に戦争がようやく終わり、ファッションにも華やいだ空気が戻ってきます。

ファッション業界では、若手の旗手として、クリスチャン・ディオールが「ニュー・ルック」を
発表したことが後に旋風を巻き起こしましたが、マルセルは自らを「新時代のパイオニア」と称し、
その名に恥じぬような製作を次々に発表していきました。

貴族・王族のために、豪華絢爛という言葉が相応しい宝石を常に手がけてきたこのブランドに、
マルセルは「アリスト・ロック」(高貴な人向けの小粋なタッチ)というスタイルを確立し、
後に名が残ることになったクラス・ワン、ダンディ、リアンといった作品を次々に生み出しました。

王家に納める豪華な美しさから小粋な美しさまで手がける現在のショーメは、こうして形作られたのです。

現在のショーメ

戦後から現在に至るまでのショーメの歩んできた道は、決して平坦なものではありませんでした。

1987年には、ジャック&ピエール・ショーメの兄弟が経営者の地位にありましたが、14億フランもの
負債を出し、経営破たんすることになりました。

更にこの二人は、銀行業務で不正を行ったとして逮捕され、有罪を言い渡されました。

このような経営陣の問題を抱え、1999年にはLVMH傘下に入り、経営方針からリニューアルし、
今日に至ります。

そして、経営上の問題があったとしても、ショーメは現在でもジュエリーの世界最高峰に位置し、
人々を魅了し続けています。

広告にはフレンチ・エレガンスの代表としてソフィー・マルソーを起用、彼女の輝くばかりの美しさと
宝石の美しさは、双方を際立たせて、見事なコラボレーションになっています。

現在でも、工房はパリにあり、鍛錬を積んだ20人あまりの宝石職人やセッティング職人、
研磨職人などによって、その神聖な場所は守られています。

現在では、デザイナーによる作品販売だけに留まらず、オーダーメイドも受け付けており、
事業としての幅の広がりも見せています。

古来から、人々は宝石に魅了されてきました。

そしてこれからも、私たちを魅了する多くの作品が、パリ・ヴァンドーム広場に拠点を構える
ショーメから生み出されていくことでしょう。

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